残業代ゼロ法案って何?メリットとデメリットを分かりやすく解説します
2018/03/22
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残業代ゼロ法案という、労働者にとって注目の法案を知っているでしょうか?
残業代で稼いでいる人にとっては、知っておきたい法案なのですが、どうやら少しばかり誤解が先行して、残業代ゼロ法案には正しい理解が必要です。
この記事では、残業代ゼロ法案の説明と、メリット・デメリットについて触れています。
残業代ゼロ法案はいつから施行されるのか、残業代ゼロ法案が持つ意味についても理解を深め、ミスリードされないようにしましょう。
まずは、残業代ゼロ法案とはどのような内容なのか解説していきます。
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2.残業代ゼロ法案とはなにか?
残業代ゼロ法案は、2015年4月3日に閣議決定され、国会で成立すれば2016年4月から施行される予定でした。
安保法案を優先させたことで、2015年での成立は見送られましたが、いずれは成立・施行の流れとなる法案です。
正式には、特定高度専門業務・成果型労働制(高度プロフェッショナル制度)といい、一般には残業代ゼロ法案と呼ばれています。
他にもブラック法案など、とにかく否定的な呼び方がされており、それは労働者に苛酷だと考えられているからです。
現在では、「残業代ゼロ」というインパクトの強い名称が先行して悪いイメージです。
しかし、この法案の目指すところは、残業代をゼロにすることではなく、残業という概念そのものをなくして、成果型の労働にシフトさせようとするところあります。
残業代ゼロ法案の適用は無制限ではない
現行の労働基準法がある以上、残業代ゼロ法案は、無制限に残業ゼロ状態を作り出すような法案ではないことは明らかです。
あくまでも例外規定で、無条件に労働時間の規制をなくすること、つまり労働基準法を撤廃するための法案ではありません。
- 一定以上の年収があること
- 高度な専門的知識を必要とする業務であること
- 使用者が健康確保措置を講じること
- 労使委員会で4/5以上の決議があること
- 本人の同意があること
これらの条件を満たした場合に、労働時間や休憩・休日など、労働基準法の規定を適用除外とすることが盛り込まれています。
具体的な条件については、省令で定められるため、今後変わっていく余地を残しますが、概ね次のように検討されています。
- 年収は1,075万円以上
- 業種は金融ディーラー、アナリスト、コンサルタント、研究開発業務など
現在のところ、高収入で高度な専門職を前提としているのがわかります。
もっとも、既に経団連が400万円以上への緩和を要望するなど、将来的には規制緩和の方向で進むかもしれませんが、社会全体で残業がなくなるような煽りは全く的外れです。
また、以下の労働条件のいずれかを満たす必要があります。
- 業務間のインターバルと深夜残業の回数制限
- 1ヶ月または3ヶ月における労働時間の上限設定
- 年間104日以上かつ4週間で4日以上の休日
こちらについても、全てではなく「いずれか」とされていることに批判が集中しており、審議しだいでは今後修正されるかもしれません。
なぜなら、理論上は一定の労働時間を満たせば、休みなしで働かせることが可能になり、一定の休日数を満たせば、無制限な労働時間が可能になってしまうからです。
成立までの審議では激しい論戦が予想され、その動向が注目されます。
3.今もらっている残業代がなくなるの?
残業代ゼロと聞いて、真っ先に思い浮かべるのは、自分が今もらっている残業代がなくなってしまうという不安です。
しかし、既に説明のとおり、残業代ゼロ法案が施行されても、適用できる条件が限られてくるため、ごく一部の人しか対象にならないでしょう。
特に、1,000万円を超える年収は、労働者全体の3.8%に過ぎないとする調査があり、ほとんどは高度な専門職、役員、一定以上の管理職です。
これらのうち、役員や一定以上の管理職には最初から残業の概念がなく、対象は専門職の極めて限られた人達です。
その適用要件が、今後拡大されていくことを懸念視されているのは事実ですが、対象は労働時間と成果との関連性が低い業務という原則を踏まえれば、現行の裁量労働制すら不適切な時間制労働にまで、残業代ゼロ法案が及ぶことはないのです。
正当な残業代を支給しないブラック企業は、現行法制においてもブラック企業であり、時間制労働において、サービス残業が横行している現実とは別な話です。
ましてや、最初から残業代が支給されない役職の人においても無関係です。
(1)残業代ゼロ法案のメリット
残業代ゼロ法案が成立すると、労働者にどのようなメリットがあるのでしょうか?
一見すると、労働者が不利なように思えますが、何のメリットもなく成立させるのでは政権にとって致命傷ですから、当然にメリットはあります。
- 成果で評価される働き方を希望する人には都合が良い
- 成果と無関係に労働時間で給料が決まる不公平感を是正
- 労働者の意識向上が図られる
- 無駄な残業代が減り企業収支が改善
- 労働と生活のライフバランスに自由度が増す
残業代ゼロ法案は、残業の概念がない成果主義の労働形態を取り入れるもので、労働のあり方に選択肢を増やしているに過ぎません。
ただし、残業代ゼロ法案の適用になっても、成果主義の報酬体系を義務付けるものではないことには注意が必要です。
一方で、労働時間に成果が比例するような業種では、そもそも残業代ゼロ法案が適用されることはなく、従来通りの労働形態は維持されます。
(2)残業代ゼロ法案のデメリット
労働者にとって自由度が増すことは歓迎されるべきですが、同時に企業にとっても雇用形態に自由度が増すのですから、デメリットも当然あります。
- 業種によっては合法的に長時間労働が可能になる
- 成果のハードルが高くなりやすい
- 適用要件が限定的で広く一般には導入できない
- 報酬が成果に結び付かないまま適用される可能性がある
いくら成果主義を唱えても、その成果水準を決めるのは企業なので、実質的には労働時間の抑制には繋がらないとする意見が多く聞かれます。
違法なサービス残業が蔓延している世の中では、残業代ゼロ法案の施行でサービス残業が合法化されるという懸念です。
4.メディアが無闇に煽る理由はなに?
多くのメディアが残業ゼロ法案に否定的な論調を展開しており、政府が提言する特定高度専門業務・成果型労働制や高度プロフェッショナル制度という呼称は使っていません。
これは、名称がわかりにくいとはいえ、そのまま使えば専門職をイメージできるにもかかわらず、「残業ゼロ」という一般職にも影響を推測させる言葉で、世論を誘導したいのか、自社のコンテンツに注目を集めたい意図があるように思えます。
例えば、安全保障法案が「戦争法案」と揶揄されたように、多数が嫌悪するレッテルを貼ることで興味を引く手法と全く同じです。
客観的な論調であるべきメディアも、生き残りを賭けて発信しているので、インパクトの強い言葉を選びがちなのでしょうか。
なお、残業ゼロ法案の対象者とするには、労使委員会で4/5以上の決議が必要で、その決議においても、対象者の賃金が減らないよう法定指針に明記することが適当と、労働政策審議会労働条件分科会が報告しています。
これは、法律ではなく指針への明記なので、実効性が担保されるものではありません。
しかし、このような事実は全く取り上げずに、無闇な煽りと思える論調を展開するのは、実際に1,000万円以上の年収に該当する、大手新聞社やテレビ局の社員が自己保身を図っているとの厳しい指摘もあります。
まとめ
残業代ゼロ法案は、成果に比例しない過剰な労働時間を強いられている労働者へ裁量を与え、企業にとっては無駄な残業代による経営悪化を防ぐものです。
もちろん、制度を悪用しようとする企業が出てくる可能性は否定できないでしょう。
その点は企業倫理と監督官庁しだいですが、だからといって、時間に縛られる労働を今後も続けていては、人生の大半を会社で過ごすことになってしまいます。
労働に対する対価を、時間ではなく成果に求める社会を作り出すことは、労働者の能力が向上すると自由度が増していくことにも繋がります。
残業代ゼロという言葉に踊らされ、内容も理解せずに否定するだけの立場にはなりたくないものです。